残骸

映えない人生

灼熱ホームは回避できない

 

春は変態が多くなると言うが、夏は判断能力がやや鈍ると思う。

 

特に夏の駅のホームは地獄だ。暑さがジリジリと私の体を攻撃してくる。電車を待つ数分間も絶え間なく降り注ぐ夏の太陽。絶え間なく降り注いでいいのは愛の名だけだ。マスクのせいもあり、汗は止めどなく溢れてくる。どうして神様は人間を汗という汁が湧き出てくるように創ってしまったのか。神様のミステイク。ジェル状の日焼け止めが出てこい。

 

頭はぼーっとして視界が霞む。

私の思考をぼやけさせるには夏のホームであれば3分もあれば十分だろう。このままでは状況は悪化するばかりだ。「暑い」以外のことに意識を集中させる必要がある。何か他のことを考えよう。しかしそうなるとこれしか出てこない。

 

「やめたい。」

 

仕事を、やめたい。

 

朝の通勤を、やめたい。

 

印税で、飯を食いたい。

 

 

 

 

そうだ、私はアーティストになろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしアーティストだからと言って夏に仕事がないかと言えばそうではないはずだ。売れるまでは移動は電車になるだろう。音楽活動をするのであれば事務所に入れるまで路上で歌ったりしなくてはならないかもしれない。駅のホームの数分間でウダウダ言っている場合ではない。でもそれではだめなのだ。意味がなくなってしまう。私は「絶対に」夏に働きたくない。夏は遊ぶもの。まあ100歩譲って働くとしてもクーラーをガンガンに効かせた所から1歩たりとも出たくない。

 

その為に何か方法はないのか。

私は茹だるような暑さの中、ホームに立ち尽くしたまま思考を張り巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、逆TUBEになろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TUBEは夏の曲で当てた。

TUBEの夏以外の曲を知っているだろうか?いや知らないだろう。私は知らない。むしろ夏以外はお見掛けしないだろう。最近は夏ですらお見掛けしていない気もするが、「でも夏と言ったらTUBEだよね」という風潮は未だにあると思う。私がサザン派なのはさておき。カラオケで定番になれば一発だ。あなた歌う、私金入る。

 

 

そう思い、冬の曲で1発当てたいと考えた。

私ならゲレンデが溶けるほど恋したい気持ちがわかるし、いけると思う。問題はメンバーだが、私だけではどうにもならないので作曲が出来る人材が絶対に必要だ。まあこれはビズリーチで探すとして、置いておこう。

メンバーは私含め3人。globeとかブリグリみたいなイメージでいきたい。(チョイスが平成初期生まれを物語っている)

……イヤ、1人「こいつ、いるか?」なポジションも必要かもしれない。そうなると4人か。4人…まあ大体GLAYみたいな感じだろう。よし、売れるな。しかしGLAYに こいつ、いるか? なポジションの奴はいない。やめよう。当初の予定通り3人でいく。3人で、1人が変なファッションだったり、変な動きをするトリッキーさがあればイケるだろう。

 

曲は冬なのでやはりラブソングか。

というか夏だろうと、世間的にガツンと売れるのはやはりラブソングだと思う。ラブソングでないのに売れたのなんてだんご3兄弟トイレの神様くらいだろう。なんだかんだ人間みな恋したいのだ。

 

冬のラブソング… 「雪が綺麗と笑うのは君がいい」を越えるフレーズを死ぬ気で考えよう。まあなんとなくゲレンデが溶けるほど恋してたり、雪とあなたへの想いが降り積もったり、冬の関連ワードと恋を結びつければなんとかなる。私ならいける。国語の成績は良い方だった。ただ少し真剣に考える時間はほしい。それを夏に考えよう。1歩も外から出る事なく。そうやって夏に考えた冬のラブソングで1発当てて印税生活をしよう。夏は遊んで暮らそう。グループ名はBETU。TUBEの逆で読み方はベーツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで考えていたら、電車が到着した。

冷房の効いた車内に入り、身体の熱は放出される。ヒンヤリとした空気に触れる。最高だ。クーラーはなんて素晴らしい発明なんだろう。私は感動に打ち震える。そして思う。

 

 

「どうかしてたな」