はじまりの大地
昨日、久しぶりに秋葉原に行った。
ワイヤレスイヤホンデビューをする為、その地へと向かったのだが、ここは色々と思入れのある場所なのだ。
駅に着いて、まず思い出す。
高校生の頃、好きになった人とはじめてデートした事を。(後に何年も続く彼である)
しかも私、滅多に遅刻などしないこの私が、なんと待ち合わせ時間に起きるという大失態をしでかす。どうして?私はいつもなら時間には厳重な人間なのに。今の恋人にも「石油王に見初められたいならデートの時間20分くらい遅れて来なきゃダメだよ」と言われるくらいきちっとしてるのに。
人生で13番目くらいに焦った。1番は思い出せないが、多分13番くらいにはランクインするだろう。この日のことはハッキリ覚えている。自分が着ている服、髪型まで覚えている。今思うとクソダサいが、ロリコンオタクの心を射止めるには十分だったと思う。
私は全力で走った。夏休み中、毎日のようにメールのやり取りをしていて もう誰がどう見たって私のこと好きだろうという自信もあり、「まあ遅れても大丈夫だろうな♡」と頭を掠めつつも、それでもやはり猛ダッシュした。
そんな初っぱなから汗だくになるつもりはなく、大幅に予定が狂ったが彼は怒っていなかった。後にわかることだが、彼はこういうことでは怒らない。ブチギレる時は必ず他の男が絡んでいる。私はそんなこともつゆ知らず、のほほんと 今日ぜってえ仕留める という決意を固めていた。(のほほん)
でも私には目標があった。
今日この日、告白をされたかった。
肉食系動物にとって、好きな相手から告白をされるということは稀なイベントなのだ。いつも気付いたら自分から告白してしまっている。
そんな思いでカラオケに入った。歌うのは好きだ。だがこの日のカラオケについては何の記憶もない。それもそのはず、私は2人きりの密室でこんな事を考えていた。
今回は告白されたい!2人きりになればイケる!こんなにわかりやすく好き好きオーラ出してるんだから!というかもう両思いも確定なこの状況!さあいつでも来なさい!私は食い気味で返事するぞ!!
全然来ねえ………なんだこいつ…やる気あんのか………?
私がこんなに野生のいたいけな鹿になりきってあげているというのに、どういうことだろう。我が身をこんなに丁寧に差し出しているのに。
今の私はチーターの前でプレゼントさながらに横たわる鹿…どうぞ召し上がれと言わんばかりに無抵抗な草食動物を装っている。現代の男子は草食と言うのは本当だったのか。こんなチャラチャラした見た目をしているくせに…お前が野生動物だったらとっくに死んでるぞ…と鹿の皮をかぶったハイエナは思った。
時間は過ぎてゆく。
こいつ、カラオケには制限時間があるのをご存知か?と本気で思えてきた。ここを出たら外で、そのあとは声優のイベントに行く事になっている。チャンスはここじゃないのか?夜か?でもそんな気の利いた場所をこの人が偵察しているとは思えない。わかっているのか?
私 is 好きな女、オーケー?
___しかし思えば私は昔からそうだった。
学校でもなかなか決まらない学級員や班長、遠足のリーダー… 「決まらない」「進まない」空気が妙に苦手で面倒になって最後には「じゃあ私がやります」と言ってしまう事が多くあったのだ。もちろんそんな器でもないしマメなタイプでもリーダー気質でもない。おまけに人望もない。明らかな不適任を、全員が真剣に考える事を放棄しているからこんな結果になるのだぞ、私は知らんぞ、という思いでやっていた。つまり空気に根負けするタイプなのだ私という奴は。
この時、まさにあの時の感情と似ていた。
なかなか私と密着してくるくせに何にも言い出さない。私の体に腕が回っている。ここは普通に考えたら真剣なトーンで「…あのさ、」と切り出してきても良さそうなところなのだが。「私が言い出さないと何も始まらないんだろうな」の、この空気。まさに私が学級員になるのを待っているこの感じ。ムズムズしてくる。
もうこうなったら仕方ない。結局どんなシチュエーションでも、好きな人が手に入るのであれば構わないじゃないか。所詮私は肉食動物… そう思い、鹿の皮を剥いだ。
「あの…夏休みも毎日メールしてたり、毎度可愛いと言われたり、今もくっついてるけど、
私ってどういうポジションなの?」
「……ぇ?え、じゃぁ…………
…付き合いますか?」
なんか思ってたんと違う!!!!!!「じゃあ」って何やねん!!!!けどまあいいか!!!!!!!!
そんなこんなで、高校1年生の9月、私は彼と付き合う事になった。ここまでのBGMは「冒険でしょでしょ?」でお願いする。本気でとんだ冒険の書になるから笑えないのだが。でしょでしょ?なんていう軽いノリではない。
そして時は流れ、私は大学生。
確か3年か4年で(うろ覚え)、秋葉原で働いていた。先ほどの彼とは別れていたが、連絡は取っていて私にとっては未だに好きな相手だった。
秋葉原ではケンタッキーやコトブキヤのあるあの通りでいつもビラを配っていた。他にも場所はあったのだが、あの通りが一番成功率が高かったのと、あまりうろちょろ変えない方がいいという戦略のもと、いつもあの場所にいた。
そして私は秋葉原でまた出会う事になる。
未来の彼氏に。
しかもまた、同じことを彼にも思うのだ。
どうしても鹿になりきれない私はまた学級員になる。13年越しに。
人生とは不思議だな
今もメイドカフェの店員がズラリと並ぶ異様な光景、メイドと立ち話をする男を横目に、私は帰路についた。