残骸

映えない人生

事件ファイル No.711

 

レジ袋有料になってからエコバッグを持ち歩くようになったのだが、昨日は思わぬ事件が起きた。

 

コンビニでお昼を買った。

あまりお腹が空いていなかったのでところてんとスープとパイナップルと飲み物。すごく食に興味のない人間のような昼食。

 

私の中でレジ袋がなくなってからコンビニでの買い物はやや憂鬱なものになった。前にも少し書いたことがあるが、お金を出した後自分の持っているエコバッグに商品を詰めるという作業が入り、後ろに並んでいる人がいると焦ってわたわたしてしまうからだ。私のような思いやり溢れる人間には焦らずに詰めることが出来ない。後ろの客どころか、別に思っていないかもしれないが店員さんの「早くしろよ」という威圧も感じる。しんどい。

なのでお金を払っている間に「バッグに入れましょうか?」と言ってくれる店員さんは神様のように感じる。私の中でコンビニの推しメンになる。

 

しかしまあ最近のコンビニの日本人の店員の少なさよ。私は外国の店員さんでも気にしない。言葉遣いがどうとか、コンビニにそんなもの求めるなよめんどくせえと思うたちなのである程度の事をやってもらえたらそれでいい。さすがにカレーにお箸を付けられた時はやるせない気持ちになったが、その時からある程度スプーンやフォークをバッグに入れておくようになった。

一度、ファミマで新商品を買おうとしたら登録自体がまだだったようで(普通に陳列はされていた)、その商品はまだ売れないんですという旨を伝えようとしたらしいが日本語がまだ上手く話せない店員さんで「コレ、上ガマダ……ヤッテクレテナイ……ナクテモイイ!?」と言われた事がある。言い方が面白かったので いいわけないけどいいよ!と朗らかに許せた。

なので全く不満はないが、「バッグに入れましょうか?」といった細かい心遣いをしてくれるのはやはり日本人の店員さんだ。サービス精神をやたらと強調してくる日本の風潮にはうんざりしていたがやはり助かる部分もあるなと思う。

 

 

事件の話をしよう。

 

 

職場近くのセブンイレブン。やや大人しめの外国の店員さん。いつものようにお会計でお金をわたわたと出し、商品を詰めた。後ろの人も待っているプレッシャーから私はその場を一刻でも早く立ち去りたくなる。というか立ち去った。しかし我ながらめちゃくちゃ早い。決まった。これでもう私はエコバッグ商品詰めマスター。完全にこの一連の動きを習得した。

 

店員さんの小さな声を背中で感じる。

何を言っているかよく聞き取れない声だがまあこのシチュエーション、「ありがとうございました」とかせいぜい「またお越し下さいませ」とか、まあその程度だろう。私は振り返らない。そして自己最速タイムでお会計を済ませたことへの満足感で、良い気分で職場に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしところてんのつゆを混ぜながら何故だか私はもやもやしていた。なんだろう、この違和感は。「ところてん」がBLにおけるエロ用語だからだろうか。白昼に向き合う「ところてん」への違和感…?いや違う。もっと大事な事のような気がする。

 

 

………

 

 

 

じゃあここで今日買ったメンバーを紹介するぜ!

 

 

 

エロ用語ではない!ところてん〜〜〜

 

 

 

冷房で寒くなるからね!スープ〜〜〜

 

 

まあ普通に、お茶〜〜〜

 

 

免疫力!大事!R 1ヨーグルト〜〜〜

 

 

なんとなくそれなりに腹を満たせそう!パイナッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイナップルがいない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんということだ………

会計時の「早さ」を追求するあまり、私はパイナップルを買ったまま置き去りにしていた。お金は払っているのに置き去りにしてしまった。

 

 

 

そこで私は思い出す。

背中で受けた店員のか細い声を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは「ありがとうございます」でもなく「またお越しくださいませ」でもなく

 

 

「パイナップル忘れてるよ」

 

 

 

だったという事なのか……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやもっと声張って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私もよく、受付で相手を呼び止める時に番号札の番号がパッと出てこず、「患者様!」と呼ぶ事がある。でもそれでも大体大きな声を出せば人というのは振り返ってくれる。ひどい時は「患者様」という単語が出て来ないので「お客様!」と呼んでしまうが、呼び掛けられた方は「もしや私のことか?」と思って念のため振り返るだろう。別にそれでも良いではないか。呼び止め方はなんでもいい。振り返らせて、その先の内容が大事なのだから。

だからあの場面で「お客様!」という言葉が出てこなかったのであれば「おい、パイナップル!」でも私は全然許せた。私はパイナップルではないが念の為振り返るだろう。そうして自分の犯しているミスに気がつくのだ。

 

 

 

これからコンビニ店員の募集をする店には募集要項を「声の大きい人」にしてもらいたい。私のような悲しい人間を出さない為に。